白モツの思い出(長文です)


今週は、本当にいろんなことがあって

(主に仕事面ですが)

ほとほと疲れてしまって、夜はご近所の居酒屋で飲むことに。



この町、駅前にマクドナルドすらないんですが、

ちょっとだけ残っている飲食店は、案外どこも美味しいのです。

チェーン店もありますが、そういうところは行かずに

地元に残っているお店にたまに行きます。


その中のひとつに、モツ屋の居酒屋さんがあります。

たれの味は市販っぽいのですが、焼き方が上手なのと

とにかく安くてお店に活気があって接客が気持ちがいいのです。


必ず食べるのが、白モツ







白モツを食べると思いだすことがあります。



子供の頃、小学校の前半に数年だけ

鎌倉の端っこの方に住んでたことがあります。

小さな商店街があって、大きなスーパーもあったけど

この商店街にとても活気がありました。

同級生の半分位はこの商店街のお店屋さんの子で

下駄屋のしんちゃんとかクリーニングのみかちゃんとか

蕎麦屋の博士とか、そういう土地でした。


3年の時に、いわゆる学習塾に一番仲が良かった

がーこ、というあだ名の女の子と通い始めた。

週に1度だけ、夕方からたぶん夜の7時前ぐらいまで。

学習塾が商店街の一番奥にあったので

帰り道に、がーこと二人で商店街の中を端から端まで抜けて歩く。

母親と一緒に来る昼間の商店街とは違って

お店に灯りが点って

その灯りと夜の闇との陰影が色濃くなる夜の商店街は

週に一度のちょっとした違う世界での冒険って感じ。


その商店街の一番出口の方に、昼間にはないお店が出ていた。

屋台の焼鳥屋さん。

父親ぐらいの人が、赤い提灯がぶら下がった周りに集まって

立ったまま焼き鳥を食べている。

外で、立ったまま食べ物を食べられるなんて、

なんて楽しそうなんだろう〜。

実際、そこにいる人たちみんな楽しそうで、

裸電球の下で赤くなる炭火と煙が上がる焼き鳥。

汗をかきながらおじさんが楽しそうに焼いている。

夕飯前のお腹にぐーぐーと沁みわたる、焼き鳥のにおい!


いつも前を通る時は、がーこと二人で見てないようなふりして

通り過ぎていたんだけど、

ある日、その屋台の前を通った後にがーこが

「いいにおいだよね〜」と言いだした。


その日から、私たちはその屋台の前を通るたびに

横目でチラチラと観察して通るようになりました。

もう、興味津々。


「いくらなんだろう?」

「子供でも売ってくれるのかな?」

「この前、女の人がいた!」

「たくさん包んで持って帰る人もいたね」


とにかく、その焼き鳥を食べたくて食べたくて仕方がなくなってた。

でも、買い食いは親に禁止されていたし。

ましてや外で!しかも立ち食い!そんなのばれたら大変!


ある冬の日。

いつもよりお客さんの少ない屋台の前を横目でチラチラ見ながら

通り過ぎようとした私とがーこに、屋台のおじさんが

「お嬢ちゃんたち、食べていけば?」と声をかけてきたのです。


ピタッと足を止めた、私たち。

顔を見合わせて、200円ぐらいならあると確認をし合い

意を決して屋台に進みました。


にこにこした屋台のおじさん。

お客さんの数人が私たちのスペースを作ってくれる。

チビな私は屋台の高さがほぼ目線。

今まで通りすぎて横目で見るだけの屋台が目の前に。


そこで一番安かったのが、白モツ

二人で1本ずつそれを注文した。

おじさんが大皿の中から2本とって、炭火の上へ。

自分たちが注文した白モツが煙をまとっていくのを

じっと見る。

お客さんが話しかけたりしたけど上の空。

おじさんがたれの壺に串を突っ込んでもう一度炭火の上へ。


「はい、おまちどう!」と、私たちの前に置かれた小皿に

アツアツの湯気を立てた白モツが2本、置かれた。





ほとんど口もきかず、夢中で食べた。

確か、70円だった。

二人とも100円玉を出してお釣りをもらった。


なぜか、その後は二人で無言。

美味しかったのに、美味しかったとも言えず。


それからは二度と、屋台に寄らなかった。

前を通るとおじさんが声をかけてくれたけど

がーことその場を走るように通り過ぎた。


あの時の白モツは本当に美味しいと感じたんだろうけど

親にばれたらどうしよう、お客さんの中での異質感、

悪いことしている蜜の味、などなどが

頭の中にあって、もう食べちゃいけないんだって思うしかなかった。


それから長い間、白モツって食べたことなかった。

考えると、関東にその時代に白モツがあることが不思議。

関東でモツを食べるのが自然になったのはここ十年くらいだろう。

もちろんなかったわけではないけど、これだけポピュラーになったのは

たぶん最近だよね。


数年前に白モツを食べた時、唐突にあの時のことが思い出された。

そんなこと忘れ去っていた事だったのに。

商店街の陰影、冬の冷たい風、

夜の街を友達と二人だけで歩いている高揚感、

商店の店先から漏れる赤っぽい電球の色、

いつものお煎餅屋さんですら違った店に見えた。

屋台の赤ちょうちん、夜風に乗って漂う煙と匂い、

知らないおじさんたちの笑い声とか、

そういうのがフラッシュバックのように、

頭じゃなくて心の中に浮かんだ。





そして、あぁ、がーこ。

がーことは仲が良かったのに、私の引っ越しで音信不通になってしまった。

がーことはその後一度だけ街でばったり再会したのだけど、

その話は、またいつか。



白モツを大人になって食べて、

この思い出が蘇ってからずっと、

白モツを食べるたびに、あの時のことを思い出す。



本当に、今週はいろいろあって、

いつもは口にしない、こんな思い出話までしてしまいました。